春を運ぶもの
春を運ぶ食べ物。
それは「いかなごの釘煮」です。
私が生まれ育った神戸では、定番の食べ物です。
桜のつぼみが膨らむ頃、どこの家でもこの「釘煮」を作るので、学校帰りの道など
歩いているとあちこちの家からこの食欲をそそる香りが漂ってくるのです。
自分の家の分だけでなく各地に住む親戚中に送るので、キロ単位で作るから、
この時期はどこも大忙し。
朝の網であがる「いかなご」を目当てに市場はショッピングカートを下げた人で
いっぱいになるのですが、みんなが5kg、10kgと買っていくものだから
すぐに閉店。夕方の網があがる頃、また市場に再集結します。
早い時期の「いかなご」はとても小さく、めだかより少し小さいくらいの魚で
これを崩さないように、生臭くならないように、ふっくら炊くのが難しい。
さっと下ゆでして「釜揚げしらす」の状態になったものは子供達の格好のおやつ。
中に混ざったタコやカニの子供を探しながらつまみぐいをするのです。
そのあとキッチンは醤油とザラメの甘辛い香りに包まれます。
生臭さを消すために千切りにしたショウガをいれるのですが、
子供の頃はその「いかなご」に扮したショウガを間違えて食べないようによけていたものです。
今年も、神戸のおばぁちゃんからその春の便りが届きました。
いつも一工夫するおばぁちゃんのそれはゆず入りでした。
炊きたてのごはんにのせて食べれば、これだけでごちそうです。
おばぁちゃん、今年もありがとう。
みなさんの郷土の春の味覚はなんですか?